東京工業大学 長谷川晶一研究室 : Hasegawa Shoichi Laboratory
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研究概要

2017.11.14 長谷川晶一

心と体と実世界のコンピューティング

 長谷川(晶)研では、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)、シミュレーション、ヒューマンインタフェース、ヒューマンコンピュータインタラクション(HI, HCI)を研究し、人が自然に楽しく創造的に暮らせる情報環境を作ることの一助になれればと考えています。  技術と社会が急速に変化しても、人が生き物として生きる限りは、人が人に育てられ、実世界の人間社会で生活する限りは、人の感じ方や楽しみや悲しみを感じる事柄の本質は変わらないと思います。顕微鏡や自動車、メディア技術、VR、HI、HCI、ロボット技術は、感覚と身体を拡張しますが、人の情報処理の仕組みが大きく変わらず、生活の基盤に実世界と人間社会がある限り、人の価値観も大きく変わらないと思うからです。  VRを研究しているとリアリティの追求に目が向きがちですが、我々の目的は現実の模擬ではなく、それを改変してより良い環境を作ることです。ですから、リアリティが不要な場合もあります。その場合でも、改変した環境に人が自然に馴染み上手に振る舞えることは大切です。「自然に」というのは、リアリティを緩めた、VRの持つ本質的価値の一つだと考えています。

目指す情報環境の構築には、人の身体と心、感覚運動系や人の認識や感情、人が暮らす実世界の性質を考えに入れること、その上で技術を駆使して環境を作り上げること必要です。長谷川(晶)研は、これらを計算機で扱えるようにすること=計算機上に人と実世界のシミュレーションモデルを作ること、力触覚とそれを考慮したHI、HCIを作る点に特に専門性を持っています。

振動による質感や構造の提示

振動による質感や構造の提示

長谷川が最初に触れたVRは、物体に触れた時の反力を提示する力覚レンダリングです。その後バーチャル物体に触れた時の反力の感覚を提示する力覚提示から研究をスタートしました。バーチャル物体の操作は、操作の手応えがないとパントマイムをするようなものなので、とても難しいです。力覚を提示すると、操作に応じてフィードバック力が手に加わるため、考えるまでもなく手の状態が分かり、上手く操作できるようになります。(動画) ところで、操作に応じてバーチャル物体を自由に動かすためには、その運動をシミュレーションする物理エンジンが必要になります。物理エンジンによって物体が動くさまをコンピュータグラフィックスを用いて表示すると、操作の影響が視覚提示されるため分かりやすく、上手く操作できるようになります。 ゲームのキャラクタの反応動作も、物理エンジンを用い、生き物の感覚運動系のシミュレーションにより生成することで、ユーザの操作や行動の影響がより詳細に分かりやすく提示されるようになります。これにより、ユーザは安心して自然に様々な行動を取ることができるようになります。 それでも、まだ現実と比べるとまだフィードバックが足りず操作しづらい点も多いです。現在は、物体を敲いた時滑ったときの振動をフィードバックすべく研究しています。

自然な対話を実現するキャラクタ動作生成

感覚と注意の可視化
その仕組
ユーザの動きに反応するバーチャルクリーチャ

ゲームのキャラクタの反応動作も、物理エンジンを用い、生き物の感覚運動系のシミュレーションにより生成することで、キャラクタの意図とユーザの操作や行動の影響がより詳細に分かりやすく提示されるようになります。これにより、ユーザも人間や動物に対するときのように自然に様々な行動を取るようになります。 キャラクタとの会話も研究対象ですが、会話が始まる以前の視線や仕草など、会話以前に普段意識せずに行う自然な社会的スキルをキャラクタに対しても発揮できるよう、自然な振る舞いのキャラクタを作りたいと考えています。これにより生き物や人とのふれあいの楽しさを作り出すことも目指しています。 キャラクタの動作を設計する場合にも、キャラクタの心身を感じとり、なぜその動きをキャラクタが取ったのか理解できるような環境が用意することで、思い通りの動作設計の手助けになると考えられます。感覚を通じた自然で分かりやすい情報提示により、ユーザが能力を十分に発揮し、自然に楽しく創造的な活動を含む様々なことが行える場を作ることができるのではないかと期待しています。

芯まで柔らかいぬいぐるみロボットの外観と機構

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芯まで柔らかいぬいぐるみロボットの概観と機構

芯まで柔らかいぬいぐるみロボットでは、ロボットの手足をぬいぐるみ同様に芯まで柔らかくしました。ぬいぐるみの中に硬い機構があると予想外に硬いものに触れたことでつい手を引っ込めてしまいます。芯まで柔らかくすることで安心して触れ合えるロボットになりました。柔らかさによる安心感に加えて、利用者の動作に応じてロボットが出す力を変化させてロボットの意図をユーザに伝えたり、ユーザの動作に応じた動作をすることにより、ユーザの様々な動作・行動を引き出せるロボットを実現したいと考えいます。また、安価なモジュールとして頒布できるようにし、機構を普及させたいです。

シミュレーション技術

長谷川(晶)研では、神戸大学の田崎勇一准教授と共に研究に必要なシミュレータを研究開発し、基盤部分を物理エンジン( http://springhead.info/ )という名で公開しています。力覚インタフェースとの連携、状態の保存と再生、ロボットやキャラクタの動作生成に便利な機能、有限要素法による熱や振動のシミュレーション、Oriented Particleによる変形のシミュレーションなど多くの特徴を持ちます